現在、NPBで最も優れた守備指標はUZR(Ultimate Zone Rating)です。 しかし、NPBでUZRが測定され始めたのは古くはなく、UZR測定はビデオ分析が必要なため、過去のUZRは算出できません。 そのため、UZRほどではなくても置き換える指標が必要です。
基本的な守備記録である補殺、刺殺、失策、倂殺などを最大限活用し、FS(Fielding Share,フィールディングシェア)という守備指標が作られました。 FSの評価項目は、守備範囲、失策、暴投、捕逸、捕手、倂殺、送球に分けられます。 その中で最も重要で厳しい守備範囲について具体的に説明します。
FS守備範囲算出原理
DER(Defense Efficiency Ratio)という指標があります。
DER
=チームでアウト処理した打球/インプレイ打球(BIP)
= 1-(安打+失策出塁-本塁打)/(打者数-本塁打-三振-四死球)
単に打球の中で処理した打球の数がどのくらいになるのか、打球処理率を評価するだけです。 DERはチームのBIPがそのまま責任打球になります。 ところで、ポジション別に見ると処理した打球数は分かりますが、責任打球は分かりません。たとえば、中堅手の打球処理率を計算する場合
中堅手の打球処理率:中堅手がアウト処理した打球/チームBIP
ポジションごとに打球が均等に分布している場合、チームBIPをそのまま使用することもできますが、実際に一シーズンの標本では打球が均等に分布されません。あるポジションには打球がたくさん行き、あるポジションには打球が少なく行くことができます。そのため、補正が必要です。 ポジションごとの責任打球を正確に知ることはできませんが、責任打球の範囲を狭めることはできます。他のポジションが処理した打球は責任打球から除外することです。そういう観点から見ると、外野で処理した打球は内野の責任ではなくなります。守備領域が互いに重なる部分があるため、他のポジションが処理したと責任が全くないわけではありませんが、ほとんどは責任打球ではないといえるでしょう。
2017年セ・リーグの打球処理率とPP(Plus Play)
チーム | BIP | アウト | 内野アウト | 外野アウト | DER | 内野処理率 | 外野処理率 | PP | 内野PP | 外野PP |
中日 | 3862 | 2724 | 1925 | 799 | 0.705 | 0.498 | 0.207 | 25.5 | -2.6 | 28.2 |
広島 | 3817 | 2686 | 1907 | 779 | 0.704 | 0.500 | 0.204 | 19.8 | 2.7 | 17.2 |
読売 | 3700 | 2595 | 1891 | 704 | 0.701 | 0.511 | 0.190 | 10.2 | 44.7 | -34.5 |
DeNA | 3700 | 2588 | 1824 | 764 | 0.699 | 0.493 | 0.206 | 3.2 | -22.3 | 25.5 |
ヤクルト | 3791 | 2629 | 1861 | 768 | 0.693 | 0.491 | 0.203 | -19.7 | -31.0 | 11.4 |
阪神 | 3621 | 2491 | 1816 | 675 | 0.688 | 0.501 | 0.186 | -39.2 | 8.6 | -47.7 |
Total | 22491 | 15712 | 11223 | 4489 | 0.699 | 0.499 | 0.200 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
読売とDeNAに注目してみましょう。両チームの打球(BIP)は3700個で同じで、内野と外野で処理したアウトの数に違いがあります。読売は内野のアウト数が多く、横浜は外野アウトの数が多いです。しかし、外野で処理した打球は当初内野の責任打球ではないと見ると、読売内野は打球2996個(3700-704)の中から1891個をアウトさせたもので、横浜は打球2936個(3700-764)のうち1824個をです。両チーム内野守備力の違いは、より小さい可能性が高いということです。
2017年、セ・リーグはインプレイ打球(BIP)の数が22491で、その中で守備がアウトさせた打球は15713です。内野でアウトさせた打球は11223、外野でアウトさせた打球は4489です。内野はインプレイ打球22491の中から11223をアウトさせましたが、外野でアウトさせた打球4489に対しては内野に責任はありません。したがって、インプレイ打球22491の中から18002が内野の分け前(シェア)です。
内野が処理した打球のうち内野のシェア: 1-4489/22491=0.800
内野のシェアは0.800で、残りの0.200が外野のシェアになります。
同様に、外野が4489の打球をアウトしている間、内野でアウトさせた11223の打球については、外野に責任はありません。
外野が処理した打球のうち、外野のシェア:1-11223/22491=0.499
外野のシェアは0.499で、残りの0.501が内野のシェアになります。
読売とDeNAの補正打球処理数を求めてみると
読売内野の補正打球処理数:1891*0.800+704*0.501=1866
読売外野の補正打球処理数:1891*0.200+704*0.499=729
DeNA内野の補正打球処理数:1824*0.800+764*0.501=1843
DeNA外野の補正打球処理数:1824*0.200+764*0.499=745
2017年セ・リーグの補正打球処理率とPP(Plus Play)
チーム | BIP | アウト | 内野アウト | 外野アウト | DER | 内野処理率 | 外野処理率 | PP | 内野PP | 外野PP |
中日 | 3862 | 2724 | 1941 | 783 | 0.705 | 0.503 | 0.203 | 25.5 | 12.0 | 13.5 |
広島 | 3817 | 2686 | 1917 | 769 | 0.704 | 0.502 | 0.202 | 19.8 | 10.7 | 9.1 |
読売 | 3700 | 2595 | 1866 | 729 | 0.701 | 0.504 | 0.197 | 10.2 | 18.5 | -8.3 |
DeNA | 3700 | 2588 | 1843 | 745 | 0.699 | 0.498 | 0.201 | 3.2 | -5.1 | 8.3 |
ヤクルト | 3791 | 2629 | 1874 | 755 | 0.693 | 0.494 | 0.199 | -19.7 | -19.1 | -0.5 |
阪神 | 3621 | 2491 | 1791 | 699 | 0.688 | 0.495 | 0.193 | -39.2 | -17.1 | -22.1 |
Total | 22491 | 15712 | 11232 | 4480 | 0.699 | 0.499 | 0.199 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
2017年セ・リーグで6チーム内野と外野のアウト処理した打球数を補正したものです。 チーム全体のアウト数は同じで、内野と外野の数に変動があります。 読売は内野のPPが44.7から18.5に下がったが、外野のPPは-34.5から-8.3に上昇した。 DeNAは内野のPPが-22.3から-5.1に上昇し、外野のPPが25.5から8.3に下がった。 読売内野とDeNA内野はPP差が67だったが、23.6に減少し、読売外野とDeNA外野はPP差が60から16.6に減少した。
UZR(Ultimate Zone Rating)との比較
チーム | 内野UZR | 外野UZR | 内野PP | 外野PP | 内野PP (補正) | 外野PP (補正) |
中日 | 16.3 | -7.7 | -2.6 | 28.2 | 12.0 | 13.5 |
広島 | 2.6 | 6.8 | 2.7 | 17.2 | 10.7 | 9.1 |
読売 | -4.9 | 2.3 | 44.7 | -34.5 | 18.5 | -8.3 |
DeNA | -6.6 | 10.7 | -22.3 | 25.5 | -5.1 | 8.3 |
ヤクルト | -18.1 | -17.4 | -31.0 | 11.4 | -19.1 | -0.5 |
阪神 | -19 | -29.4 | 8.6 | -47.7 | -17.1 | -22.1 |
セ・リーグ | -29.7 | -34.7 | 0 | 0 | 0 | 0 |
相関関係 | 0.164 | 0.515 | 0.786 | 0.665 |
打球処理を補正することがどれほど肯定的な変化があるかを知るために、NPBで最も優れた守備指標であるUZRと比較しましょう。 UZRで守備範囲を測定するRngRと比較したものです。 UZRはセ・リーグとパ・リーグを区別せずに全体として算出していますが、2017年セ・リーグのUZR RngR合計が 0 未満です。補正しなかった時と比較すると、UZRとの相関関係が多く上がっています。これは2017年セ・リーグに限った比較であるため、標本を増やして2014~2021年8年間の補正前PPと補正後PPのUZR RngRと相関関係を比較すると
補正前PPとUZR RngRの相関関係:チーム全体0.739、内野0.590、外野0.471
補正後PPとUZR RngRの相関:チーム全体0.739、内野0.672、外野0.582
内野と外野ともに補正後に相関関係が0.1程度上昇しています。
ポジション別シェア算出
上記では理解を助けるために内野と外野に分けて説明しましたが、シェアをポジション別に算出することができます。ただし捕手は計算から除外します。
2021年セ・リーグ遊撃手のシェアを計算するなら
セ・リーグBIP:21918
セ・リーグで捕手を除くポジションの打球処理数:14987
セ・リーグ遊撃手の打球処理数:2787
遊撃手が処理した打球のうち、遊撃手のシェア:1-(14987-2787)/21918 = 1-0.56 = 0.4434
遊撃手が処理した打球のうち、他のポジションのシェア:2787/21918 = 0.1272
セ・リーグで遊撃手が処理した打球は遊撃手自身が約44.3%のシェアを持ち、他のポジションは約12.7%のシェアを持ちます。
2021年セ・リーグのポジション別シェア
シェア | 投手 | 捕手 | 1塁手 | 2塁手 | 3塁手 | 遊撃手 | 左翼手 | 中堅手 | 右翼手 |
同ポジション | 0.368 | 0.389 | 0.443 | 0.400 | 0.443 | 0.383 | 0.402 | 0.386 | |
他ポジション | 0.052 | 0.072 | 0.127 | 0.084 | 0.127 | 0.067 | 0.086 | 0.070 |
FS守備範囲得点計算の例
2021年阪神タイガース遊撃手の守備範囲得点
阪神から捕手を除く野手の打球処理:2614
阪神のBIP:3724
阪神遊撃手の打球処理:522
阪神から遊撃手を除いたポジションの打球処理:2614-522 = 2092
遊撃手のシェア: 44.34%
他ポジションのシェア:12.72%
阪神遊撃手の補正打球処理: 522*0.4434+2092*0.1272=497.6
阪神遊撃手の補正打球処理率:497.6/3724=0.1336
セ・リーグ遊撃手の平均打球処理率:2787/21918=0.1272
阪神遊撃手の守備範囲得点: (0.1336-0.1272)*3724*0.72=17.2